事業承継とは?事業承継の種類とメリット・デメリット、一連の流れと補助金について解説!

皆様が大切に育ててきた事業を次の世代に引き継ぐことは日本経済にとって重要なことであり、適切に事業承継を進めて、その後の会社の発展を願っている方は多いでしょう。

ですが、どのような流れで誰に相談しながら事業承継を進めたら良いのかがわからずに、お困りの方は多いのではないでしょうか。

そのような悩みをお持ちの皆様へ、この記事では事業承継の基礎知識、種類とそれぞれのメリット・デメリット、最近の傾向、引き継ぐ経営資源、一連の流れと進め方、活用できる補助金・制度などについて解説していますので、ぜひ最後までお読みください。

事業承継とは?

事業承継とは、「会社の経営権を後継者に引き継ぐこと」を指します。

経営者の子供等が、その会社で後継ぎとして働いている場合は事業承継はスムーズに進むケースが多いですが、子供が独立して別の仕事をしているような場合は、後継者不在から事業承継ができないという問題が発生しています。

株式会社帝国データバンクの2022年「全国企業 後継者不在率 動向調査」の結果によると、後継者不在率は『57.2%』となっており、いまだに半数以上の企業で後継者不在が問題となっています。

団塊の世代が75歳以上となる2025年には、経営者の方々が高齢を理由に事業から身を引くことが増え、その時までに後継者が確定していない状況だと、事業が黒字であったとしても『廃業』を選択する企業が出てしまいます。

そのため、事業承継によって事業を次の世代に引き継ぎ、事業の継続・活性化を進めることが急務とされています。

事業承継の種類は?

事業承継には、「親族内承継」、「親族以外の従業員等への社内承継」、「第三者への承継(M&A等)」という3つの種類があります。

これまでは、子供等を後継者とする「親族内承継」が大半を占めていましたが、最近は「親族以外の従業員等への社内承継」と「第三者への承継(M&A等)」の比率が増えてきています。

親族内承継とは?メリットとデメリット

親族内承継とは、経営者の兄弟や子供、孫など親族関係のある者が後継者となり、事業を承継することを言います。

親族内承継には、以下のようなメリット・デメリットがあります。

【親族内承継のメリット】

  • 他の役員や従業員、取引先などの関係者から受け入れられやすい。
  • 後継者として教育する期間をとれる。
  • 相続による会社の所有と経営の分離を回避できる。

【親族内承継のデメリット】

  • 経営者としての資質がある親族がいない場合がある。
  • 後継者と他の親族との争いが起こる可能性がある。
  • 特に子供の場合、経営者と後継者の間で軋轢が生じやすい。

従業員等への社内承継とは?メリットとデメリット

社内承継とは、社内の親族以外の役員・従業員が後継者となり、事業を承継することを言います。

社内承継には、以下のようなメリット・デメリットがあります。

【社内承継のメリット】

  • 他の役員や従業員、取引先などの関係者から受け入れられやすい。
  • 後継者として育成する期間が不要である。
  • その会社の経営者として資質がある人に経営を引き継ぐことができる。

【社内承継のデメリット】

  • 経営者としての資質がある従業員がいない場合がある。
  • 所有権を取得するための資金を準備できない場合がある。
  • 債務の引き継ぎ等で問題が起こりやすい。

第三者への承継(M&A等)とは?メリットとデメリット

第三者への承継とは、M&A等によって他の企業や個人が後継者となり、事業を承継することを言います。

第三者への承継には、以下のようなメリット・デメリットがあります。

【第三者への承継のメリット】

  • 親族や社内に後継者がいなくても、外部から適切な企業・人材を探すことができる。
  • 創業者利益を確保できる。
  • 個人保証から解放される。
  • 改革の機会となることで、企業として成長する可能性がある。

【第三者への承継のデメリット】

  • 売り手が希望する条件で買収する企業・個人を自分で探すのが困難である。
  • 承継後の経営方針・社風などが新たな経営者によって大きく変わる場合がある。

親族外への承継が増えている

株式会社帝国データバンクの2022年「全国企業 後継者不在率 動向調査」の結果によると、項目内では親族内承継(同族承継)が34%と一番高いですが、年々その率は下がっており、親族外への承継(内部昇格・M&Aほか)が増えています。

事業承継で引き継ぐ経営資源とは?

事業承継で引き継ぐ経営資源は、大きく「人(経営)」、「資産」、「知的資産」の3つが挙げられます。

経営資源経営資源の内容
人(経営)経営権
資産株式、事業用資産(設備・不動産等)、資金(運転資金・借入等)
知的資産経営理念、従業員の技術や技能、ノウハウ、経営者の信用、取引先との人脈、顧客情報、知的財産権(特許等)、許認可

事業承継の流れ

中小企業庁の「事業承継ガイドライン」によると、事業承継に向けて以下のようなステップで進めることが示されています。

親族内承継・社内承継のステップ

ステップ1:事業承継に向けた準備の必要性の認識

ステップ2:経営状況・経営課題の把握(見える化)

ステップ3:事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)

ステップ4:事業承継計画策定

ステップ5:事業承継の実行

第三者への承継(社外承継)のステップ

ステップ1:事業承継に向けた準備の必要性の認識

ステップ2:経営状況・経営課題の把握(見える化)

ステップ3:事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)

ステップ4:M&Aの行程

ステップ5:M&Aの実行

事業承継・M&Aはガイドラインを理解して、支援サービスを活用する!

事業承継やM&Aによる事業譲渡は、何度も実施することではないので、事業承継・事業譲渡に対する知識が不足していると感じる方は多いのではないでしょうか。

事業承継・事業譲渡を進めるにあたっては、中小企業庁の「事業承継ガイドライン」や「中小M&Aガイドライン」の内容を理解しておくことをおススメします。

また、M&Aにおいて希望条件に合わせたマッチングなどをスムーズに進めるためには、M&A支援機関や専門家から支援サービスを受けることも検討しましょう。

中小企業庁の事業承継ガイドラインとは?

事業承継ガイドラインは、中小企業・小規模事業者に事業承継における課題を理解してもらい、円滑に事業承継を進めて、世代を超えて事業の継続・発展が図られることを目的として

作成されています。

また、中小企業・小規模事業者の支援を行う機関・団体、金融機関、自治体関係者、士業等専門家に事業承継の支援に活用してもらうことも目的の一つとして作成されたガイドラインです。

事業承継ガイドラインには、事業承継の現状や類型、事業承継に向けた準備の進め方、事業承継の課題と対応策、事業承継をサポートする仕組みなどが詳しく説明されています。

中小企業庁の中小M&Aガイドライン

中小M&Aガイドラインは、中小企業M&Aが適切な形で促進されることを目的として作成されています。後継者不在の中小企業がM&Aを検討するための手引きとして、そして、中小企業のM&Aをサポートする支援機関にとって基本的な事項が記載されているガイドラインです。

この中小M&Aガイドラインでは、M&Aの進め方・流れ、基本姿勢、事例、留意点、手数料、支援機関の種類と主な支援内容、各工程の行動指針などが説明されています。

M&Aの支援機関・専門家とは?

M&Aの支援機関には、「M&A専門業者」、「金融機関」、「商工団体」、「士業等の専門家(公認会計士・税理士・中小企業診断士・弁護士等)」、「M&Aプラットフォーマー」など、様々な支援機関・専門家がいます。

それぞれの支援機関・専門家は、買収企業とのマッチングや交渉、適切な財務書類の作成、適切な機関との橋渡し、事業用資産の整理・集約、企業概要書の作成、リーガルチェックなど得意としている分野があります。

事業承継で使える補助金・制度

ここでは、事業承継において活用できる補助金や制度についてご紹介します。

事業承継・引継ぎ補助金とは?

事業承継・引継ぎ補助金は、事業承継を契機として新しい取り組み等を行う中小企業等及び、事業再編、事業統合に伴う経営資源の引継ぎを行う中小企業等を支援するために、中小企業庁が実施している制度です。

事業承継・引継ぎ補助金は、現在第7次公募期間(令和5年10月時点)となっており、経営革新事業、専門家活用事業、廃業・再チャレンジ事業の3類型で実施されています。

経営革新事業(創業支援型、経営者交代型、M&A型)の概要

事業承継・引継ぎ補助金の経営革新事業はさらに「創業支援型」、「経営者交代型」、「M&A型」の類型があり、事業再編・事業統合を伴う事業承継を契機とする中小企業者等の新たな取組(設備投資、販路開拓等)や廃業に係る経費の一部を補助することを目的として実施されています。

類型補助率補助下限額補助上限額
創業支援型補助対象経費の2/3または1/2以内100万円600万円または800万円以内
経営者交代型補助対象経費の2/3または1/2以内100万円600万円または800万円以内
M&A型補助対象経費の2/3または1/2以内100万円600万円または800万円以内

専門家活用事業(買い手支援型、売り手支援型)の概要

事業承継・引継ぎ補助金の専門家活用事業はさらに「買い手支援型」、「売り手支援型」の2類型があり、事業再編・事業統合に伴う中小企業者等の経営資源の引継ぎに要する経費の一部を補助することを目的として実施されています。

類型補助率補助下限額補助上限額
買い手支援型補助対象経費の2/3以内50万円600万円以内
売り手支援型補助対象経費の2/3または1/2以内50万円600万円以内

廃業・再チャレンジ事業の概要

事業承継・引継ぎ補助金の専門家活用事業は、再チャレンジに取り組むための廃業に係る経費の一部を補助することを目的として実施されています。

類型補助率補助下限額補助上限額
廃業・再チャレンジ補助対象経費の2/3以内50万円150万円以内

事業承継税制とは?

事業承継税制とは、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(以下、円滑化法)に基づく認定を受けることで、会社や個人事業の後継者が取得した一定の資産について、贈与税や相続税の納税を猶予する制度です。

事業承継税制には、法人向けの「法人版事業承継税制」と個人事業主向けの「個人版事業承継税制」の2種類があります。

法人版事業承継税制は、後継者である受贈者・相続人等が、円滑化法の認定を受けている非上場会社の株式等を贈与又は相続等により取得した場合において、その非上場株式等に係る贈与税・相続税について、一定の要件のもと、その納税を猶予し、後継者の死亡等により、納税が猶予されている贈与税・相続税の納付が免除される制度です。

個人版事業承継税制は、青色申告に係る事業(不動産貸付事業等を除きます。)を行っていた事業者の後継者として円滑化法の認定を受けた者が、個人の事業用資産を贈与又は相続等により取得した場合において、その事業用資産に係る贈与税・相続税について、一定の要件のもと、その納税を猶予し、後継者の死亡等により、納税が猶予されている贈与税・相続税の納付が免除される制度です。

出典:国税庁

まとめ

事業承継の種類とそれぞれのメリット・デメリット、最近の傾向、引き継ぐ経営資源、一連の流れと進め方、活用できる補助金・制度などについて解説してきましたがいかがでしたか?

以前までは圧倒的に「親族(特に子供への)承継」が多かったですが、社会の変化に伴い、第三者への事業承継が増えています。特にM&Aについての認知が広がり、支援機関が増えていることからも、事業承継でお悩みの方は一度相談してみるのも良いと思います。

ここでご紹介した内容が、皆様の事業承継に対する悩みを解決するお役に立てば幸いです。